Ⅴ SDGs 営業 連結力営業の行く先

 

1.連結力営業

 

2.疫病と災害の時代、社会と経済は一体

 

3.SDGs営業

 

4.SDGs営業に変える

 

5.コロナ禍が営業を変える

 


1.連結力営業

 

(1)連結力営業

 

食品、日用品のサプライヤー(メーカー、卸)のBtoB営業には、大きく三体の営業がある。連結力営業」で提示

 

第一に「単品営業」。「単品での課題解決営業」ともいえる。単品ブランドがもつ力を可能な限り発揮する営業だ。

 

BtoBでは、条件提示(納価抑制)、リベート(期間を決めての割戻金)、アローワンス(施策ごとの協賛)、BtoCでは、特売、キャンペーン、クロスMDなどなどだ。得意先の売上・利益増に貢献する。

 

おもに得意先の調達窓口とサプライヤーの営業担当者が交渉して実行される。

 

第二に「カテゴリ営業」。「カテゴリの課題解決営業」ともいえる。得意先の調達窓口が担当するカテゴリー全体の生産性を上げる努力をすることなので「カテゴリー・マネジメント」とも呼ばれている。1990年代に米国から入ってきた方法論だ。サプライヤーが調達窓口と話し合いながら(代行するケースもある)カテゴリ全体の品揃え、陳列方法、販促計画を立案・実行することだ。大きなブランド力、条件提示力をもつ寡占サプライヤーのほうがこの方法をとりやすい。前出の「単品営業」と、この「カテゴリ営業」を確立すれば、得意先のカテゴリの主導権を握ることに等しいので、寡占サプライヤーは、この2つの営業を営業スキルの中心においている。

 

得意先の調達部門のそのカテゴリの縦の階層とサプライヤーの営業チーム(縦の階層・サポート役)が、目標・計画を合意し、検証しながら進んでいく。

 

食品・日用品営業のスキルは以上の「単体営業」「カテゴリ営業」の2つと言いきってしまってもよいのかもしれない。しかし、近年、ごく一部のサプライヤーで、以下の第三の「連結力営業」が生まれている。

 

第三の「連結力営業」は営業だけで進めることが難しいテーマが多いので社内外の他の機能部門を連結して取り組む営業のことだ。多くが経営課題に対応する営業なので「経営の課題解決営業」ともいえる。

 

経営課題になると各カテゴリの生産性向上以外に、人・組織づくり、社会・環境貢献もテーマになる。それは、経済貢献とともに社会環境貢献も目標に据える国連が開発した17目標「SDGs(Sustainable Development Goals)」と同様のものになる。なので“SDGs営業“と呼べる。

 

 

連結力営業のフォーメーションは、得意先のトップ層およびスタッフ部門と、サプライヤーの営業部門とそれ以外のすべての機能の部門(研究開発、生産調達、商品開発、リサーチ、コミュニケーション、チャネル政策、ロジスティクス、経営管理、人事労務)がテーマに応じて連結してチームを組んでで実行していくことになる。

 

大きなブランド力、条件提示力をもつ多くの寡占サプライヤーは、連結力営業を採るとカテゴリの生産性向上以外のテーマ、たとえば社会貢献テーマなどに対応することになるため、それは別途予算化してあるCSR(corporate social responsibility:社会へ与える影響に責任をもち持続可能な社会を築いてくことに貢献する活動)を担当する経営管理部門や生産調達・物流部門に任せ、営業はカテゴリの生産性向上つまり経済貢献に専念させている。しかし、「SDGs」は、本来、組織に属する者全員が追求すべきものだ。「SDGs」については次項で詳述する。

 

得意先の調達部門も、サプライヤーの営業も、売上および利益で目標管理されている。

 

「単品営業」や「カテゴリー営業」は売上と利益を上げる直接的手段である。

 

では「連結力営業」“SDGs営業”はどうか。誤解が生じやすいのであらかじめきちんと規定しておくと、「連結力営業」には「単品営業」も「カテゴリー営業」も含まれる。ただそれらとの違いは、経営課題である人・組織づくり、社会・環境貢献などのテーマも大きな位置を占めるということだ。

 

 

(2)論点は、社会貢献、人手不足時代の効率化&社員育成

 

連結力営業」で提示させていただいたように-。二俣事務所のキーマン課題ヒヤリング調査をみると、小売業キーマンの課題認識のうちのおよそ1/3は従来の「単品営業」「カテゴリ営業」では解決が困難な、営業以外の部門と連結してことにあたる「連結力営業」でないと解決できない課題となっている。たとえば、

 

・健康価値商品:得意先が望むとおりの健康価値商品を準備しようとしたら生産部門やマーケティング部門の協力が要る

 

・リデュース・リユース・リサイクル:生産調達部門や外部の専門機関の協力が必要になる。

 

・コスト削減のためのサプライチェーン改善:ロジステイクス部門や生産部門、卸の協力なくして成り立たない

 

・PB拡充:マーケティング部や生産部の協力が欠かせない

 

・固定客づくり:サポート体制をつくり、個客の購買履歴データ分析から進めなくてはならない。

 

・人手不足の中のモチベーションアップ・働き方改革・女性活用・作業改善:人事部、外部業者の協力が要る

 

・新店・改装、新業態確立:リサーチスタッフの協力が要る

 

また、前出の小売業キーマン課題ヒヤリングの調査結果ランキングを2019-2020年と2013年で比較すると、ベスト10の上位重点課題は、2013年は連結力営業でないと解決できない課題は「PB拡充」の1つだけだったが、2019-2020年はベスト105つが連結力営業でないと解決できない経営課題レベルのテーマになっている。以下のとおりだ。

 

●人手不足

 

●社員の育成

 

●作業改善

 

●すぐ食べられるものの拡充

 

●PB拡充

 

さらに、2019-2020年の小売業キーマン課題ヒヤリング調査をトップ・マネジャ・担当バイヤー・店舗担当者に階層別に結果を示してみると以下のことがいえる。

 

●担当者は、ロス撲滅全般、需要創造全般、作業改善、人手不足を重視している。ロス撲滅、需要創造が主体で、従来の「単品営業」「カテゴリ営業」で対応できる

 

●トップ層は、安全安心、社会貢献、エコロジー、固定客づくり、人づくり全般、新店・改装、地域密着、自社らしさを重視している。社会貢献、人づくりの面が強くなり、「連結力営業」でないと対応できない。

 

つまり、これからの論点は、連結力営業でしか対応できない社会貢献、人手不足時代の効率化&社員育成、なのだ。

 

 

(3)連結力営業の効果

 

得意先の調達部門も、サプライヤーの営業も、売上および利益で目標管理されている。

 

「単品営業」や「カテゴリー営業」は売上と利益を上げる直接的手段である。ゆえにカテゴリーリーダーは「単品営業」「カテゴリ営業」に専念し、「連結力営業」“SDGs営業”にまで手を広げようとしない。

 

しかし、あるメーカーの実績を営業形態別に分解してみると、「単品営業」「カテゴリ営業」に専念するよりも、「連結力営業」“SDGs営業”に進化したほうが高い実績を出す、という検証結果もある。以下のとおりだ。

 

誤解が生じやすいので再度規定しておく。「連結力営業」には「単品営業」も「カテゴリー営業」も含まれる。ただそれらとの違いは、前項で「今後の論点」として挙げた社会貢献、人手不足時代の効率化&社員育成といった経営課題も大きな位置を占めるということだ。

 


2.疫病と災害の時代、社会と経済は一体

 

(1)疫病と災害の時代 社会と経済は一体

 

「われわれは地球のエコシステムの一部であり、食物連鎖に参加し、さまざまな植物や動物を殺して喰らい、一方、多種多様の寄生生物に対し、食い物に満ち溢れた沃野を提供している。地球のエコシステムにいかなる変化が起ころうとも、人類のこの本質的条件は変わらない。たとえわれわれの知識と行動が進歩して、病気の発生を防ぎ、食べ物の種類が豊かになろうとも関係ない」

 

ウイリアム・H・マクニール「疫病と世界史」

 

 

伝染病が多発するようになった。

 

14世紀に中国から交易によってヨーロッパに侵入したペスト菌はイギリスやフランスの人口を半減させ、封建制という政治制度を崩壊させ中央集権国家に移行させ、ユダヤ人差別を促した。19世紀から20世紀にも流行したペストは、日本の北里柴三郎によって作られた血清が効力を発揮し、日露戦争で日本がロシアに勝利する一因になったとも言われている。

 

鳥や豚から他生物にうつるインフルエンザウイルスは20世紀以来4度のパンデミック(世界流行)を起こした。1917年からのスペイン風邪(H1N1)1957年からのアジア風邪(H2N2亜型)1968年からの香港風邪(H3N2亜型)2009年からの新型インフルエンザ(H1N1亜型)である。最初のスペイン風邪はまだ特効薬もワクチンも準備されていなかったため、人類の25-30%が感染し、5000万人の死者を出した。

 

21世紀にはいるとコロナウイルスも猛威をふるい出す。2002年中国から広がったSARS2012年中東からはじまったMERS、そして今回パンデミックに至った2019年中国・武漢からはじまった新型コロナウイルスだ。この新型コロナウイルスも、スペイン風邪と同じように、まだ特効薬もワクチンも開発されていないため、人類の半分以上が感染するか、有効なワクチンが十分に導入されない限り終息はしないと言われている。

 

 

災害も頻繁に起こるようになった。背景には地球温暖化による気候変動がある。

 

2019年からのオーストラリアの凄まじい大森林火災は記憶に新しいところだ。日本だけみれば、大地震の脅威にもさらされ続けている。巨大な南海トラフ大地震、首都圏直下型大地震は、いつきてもおかしくない。

 

日本の、近年の目立つ災害を拾い上げてみると以下のようになる。毎年のように大きな災害が起こっているのがわかる。

 

2011311の東日本大震災は膨大な被災者を出し、福島原発の崩壊は日本の安全安心神話を大きく棄損し、日本人の心に絆、助け合うことの大切さを強く刻み込んだ。

 

2013年の猛暑は熱中症患者をたくさん出した。

 

20164月の震度72回記録した熊本地震は甚大な被害をもたらした。

 

20168月後半の台風などによる大雨・暴風は農業に深刻な被害をもたらした。

 

20187月の西日本豪雨は中国地方を境に物流の流れを断ち切った。

 

2018年の記録的猛暑は熱中症患者を続発させた。

 

2018年の北海道胆振東部地震は北海道経済を孤立させた。

 

20199月の過去最大クラスの台風15号と台風19号は関東・東北に大水害と経済停滞をもたらした。

 

疫病(ウイルス、細菌などの微生物による伝染病)と災害は、経済、教育を止め、貧困を生み、差別・格差意識に火をつけ、暴力を多発させ、政治を壊す。

 

疫病、災害、というひとつのアクシデントだけが起こっているのではない。さまざまな事象がつながって、絡まりあいながら、疫病や災害はすすんでいく。それが現実だ。

 

我々は、そんな時代を迎えている。

 

だから、我々は、これからは、「経済と社会は一体のもの」という考え方を持たなくてはならない。

 

 

 

(2)SDGs

 

20159月、国連サミットで、持続可能な開発のための17の国際目標が提示され、全会一致で採択された。

 

SDGs(Sustainable Development Goals)である。達成期限は2030年。

 

つまり、2030年までに17のことを実現しないと地球環境は壊れ、人類社会は滅びへと向かう、という宣言だ。

 

以下の5つの特徴をもっている。

 

❶普遍性:すべての国が行動する。

 

❷包摂性:誰一人取り残さない。

 

❸参画型:すべてのステークホルダー(政府、企業、NGOなど)が役割を担う。

 

➍統合性:社会・経済・環境は不可分であり統合的に取り組む。

 

❺透明性:目標を定め、定期的にフォローアップする。

 

17の目標とは以下のとおりだ。

 

①あらゆる場所のあらゆる貧困を終わらせる

 

②飢餓を終わらせ、食糧安全保障及び栄養改善を実現し、持続可能な農業を促進する。

 

③あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する

 

④すべての人々への、包摂的かつ公正な質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進する

 

⑤ジェンダー平等を達成し、すべの女性及び女児の能力強化を行う

 

⑥すべの人々の水と衛生の利用可能性と持続可能な管理を確保する

 

⑦すべての人々の、安価かつ信頼できる持続可能な近代的エネルギーへのアクセスを確保する

 

⑧包摂的かつ持続可能な経済成長及び安全かつ生産的な雇用と働きがいのある人間らしい雇用を促進する

 

⑨強靭(レジリエント)なインフラ構築、包摂的かつ持続可能な産業化の促進及びイノベーションの推進を図る

 

⑩各国内及び各国間の不平等を是正する

 

⑪包摂的で安全かつ強靭(レジリエント)で持続可能な都市および人間居住を実現する

 

⑫持続可能な生産消費形態を確保する

 

⑬気候変動及びその影響を軽減するための緊急対策を講じる

 

⑭持続可能な開発のために海洋・海洋資源を保全し、持続可能な形で保全する

 

 

⑮陸域生態系の保護、回復、持続可能な利用の推進、持続可能な森林の経営、砂漠化への対処、ならびに土地の劣化の阻止・回復及び生物多様性の損失を阻止する

 

⑯持続可能な開発のための平和で包摂的な社会を促進し、すべの人々に司法へのアクセスを提供し、あらゆるレベルにおいて効果的で説明責任のある包摂的な制度を構築する。

 

⑰持続可能な開発のための実施手段を強化し、グローバル・パートナーシップを活性化する。

 

上記の5つの特徴や17の目標をみてわかるように、

 

SDGsとは経済とは別の社会貢献の話ではない。

 

経済と社会は一体のものと捉え、

 

そのことについてみんなでPDCAを回すということだ。

 

 

 

(3)ESG投資

 

投資の世界でも、SDGs取組に積極的な企業に投資していく動きが強まっている。「ESG」投資という。Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス)の略だ。

 

気候変動にともなう災害や疫病の流行によって生まれてくる、経済停滞、差別・格差、飢餓・貧困、などに配慮していない企業は、結果的にたいへんな損害を被っており、投資をする価値は低い、という考え方だ。

 

ESG投資は2016年から2018年までの2年間で、世界で34%増加し、約3,418兆円となっている。日本でもおよそ2年間で4.6倍になっている。海外に比べると、日本ではESG投資がまだまだ浸透していないが、今後は拡大していくと思われる。

 

 

(4)CSR、CSV、SDGs

 

CSR(corporate social responsibility)という「企業の社会的責任」と訳されている言葉がある。企業は利益を追求するだけでなく、社会へ与える影響に責任をもち、持続可能な社会を築いていくべき。という考え方だ。

 

ウィキペディアによると1919年制定のドイツのワイマール憲法での規定がはじまりのようだが、日本ではすでに江戸時代に、のちに住友・伊藤忠・丸紅・高島屋・東レ・トヨタ自動車などにつながつていく近江商人の家訓「売り手よし、買い手よし、世間よし」(三方良し)が存在していた。

 

しかし、現在のCSRの実態は、生産・物流での社会・環境貢献対応や、社会・環境関連事業への資金供出程度で留まっており、企業組織内の一人一人にきちんと共通認識されていない。営業やマーケティングで追求されている経済活動とは切り離されたものになっていた。

 

2011年には米国ハーバード大学のマイケル・E・ポーターが「社会の利益と自社の利益(経済)の両立を戦略として進めよう」というCSV (Creating Shared Value)を提唱し、社会貢献と経済追求の一体化を図ったが、まだ目立った実績は確認できていない。

 

 

そのCSVの考え方を具体的に目標をもたせて発展させたのが2015年に国連が発表したSDGs(Sustainable Development Goals)という17目標だ。

 

そこには、社会・環境のことだけでなく経済発展のこともきちんと組み込まれている。

 

これでようやく、あらゆる組織体が、営業・マーケティング部門の人たちも一人一人が、社会と経済は一体のものとして、仕事に向かうことができる環境が整ったといえる。

 


3.SDGs営業

 

(1)SDGsは市場からコストと利益を回収する者「営業」が追求しなくては意味がない

 

いまのさまざまな組織内にあるCSRもしくはCSVと名乗る部門は“自社の営業はこれっぽっちも考えていないのに、わたしたちの組織は社会・環境をきちんと意識して活動しています”とアピールする部門と言っても過言ではない。

 

組織の全バリューチェーンの中で、市場から、費やしたすべてのコストにマージン(利益)を載せて、回収することを役割としているのは営業だけである。つまり営業こそが経済追求を使命とする部門なのである。

 

ほかの機能である研究開発、生産調達、商品開発、リサーチ、広告・販促、チャネル計画、ロジスティクス、経営管理、人事労務は、すべてそのための準備をするコストに過ぎない。

 

 

 

企業が、経営で生じた利益を元手に、社会貢献活動を行うことは、良いことであるが、それは従来のCSRの考え方であり、SDGs取組の一部にしか過ぎない。

 

あらゆる人間の上にふりかかる疫病と災害の時代、SDGsの考え方に立てば、

 

市場から、かけたコストと利益を回収する役割の「営業」こそが、いままでのようにモノやサービスを売るだけでなく、得意先と一緒にSDGs実現に取り組む、すなわち経済と社会は一体のものとして活動することこそが、企業がSDGsを追求するということにほかならない。

 

そして、それは生産性を低下させるものではない。前項で示したように連結力営業“SDGs営業”に進化した営業部隊のほうが、単品営業・カテゴリ営業ばかりをすすめている営業部隊より高い生産性を示すという検証結果もあがっているのだから。

 

 

 

(2)SDGs17目標に「4つの営業」を組み込む

 

SDGs17目標のうち「8.働きがいも経済成長も」と「9.産業と技術革新の基盤をつくろう」と「12.持続可能な生産と消費」あたりは、経済の目標である。

 

8.働きがいも経済成長も」を、コストと利益を回収する「営業」の活動とすると、その中身は、営業の基本、「人脈づくり」「会社力」「非価格の課題解決」「価格・コストの課題解決」の「4つの営業」に分解できる。それをSDGs風に言い換えると、

 

①人・組織をつくる、関係性をつくる。

 

②持っている力をフルに発揮する。

 

③非価格で需要・売上をつくる。

 

④価格で需要をつくる、コストを抑制する。

になる。それを残りのSDGs目標と一緒に表すと次ページの「SDGs営業マップ」になる。


4.SDGs営業に変える

では、どうすればSDGs営業に変わるのか。ここからは、その方法を示す

 

(1)SDGsを理解する

 

おおくの人が、SDGsは社会・環境問題対応、と誤解している。経済と社会は一体、と考えて進めるものだと思っていない。

 

大学ではSDGsについての教育が進んでいる。なので、若い人の一部は、SDGsをきちんと理解し、就職先選びの基準にしている人もいる。しかし、彼らが入社する会社の人たちが、そういう認識はもっていない。

 

とくに経済追求を使命としている営業職は、会社が準備したモノ・サービスを販売し、売上と利益を上げることに専念して経験を重ねているため、SDGs=社会・環境貢献であり我々とは別のもの、としてしかみていない。

 

だから、まず、会社としての、これからはSDGs営業でいく(CSV営業でもよい)、という簡単な方針発表が要る。その具体的な内容は、これから示すプロセスを踏んだあとで発信することとする。

 

同時に、SDGs理解の教育が要る。いちいち研修を組む必要はない。適切な書籍を全員に配布し、読んでもらい、できれば1枚程度の感想文でも提出をしてもらえばよい。

 

1冊だけ選ぶとしたら、「持続可能な地域のつくり方」筧裕介著・英治出版、になる。

 

CSVやSDGsに関する書籍はたくさん出ているが、ほとんどがその考え方や簡単な事例を紹介するもので、その進め方を具体的に紹介したものは、いまのところ、これしかない。この本は、SDGsを「地方創生」の柱となる手段と捉え、対象を、企業ではなく地方自治体にしている。それでも、企業を対象としてどうやって進めていけばいいのかが具体的にわかってくる。時間が経てば、企業向けの具体的な方法論が紹介されたものも出てくるかもしれない。そうなれば、それを使えばよい。

 

企業向けの具体的な進め方を理解したければ、この二俣事務所のホームページの本文「 SDGs営業 連結力営業の行く先」を読めば、企業向けのSDGs営業が、すこしは理解がすすむかもしれない。

 

 

 

(2)お客さま接点のSDGs営業マップを準備する

 

SDGの理解がある程度できたら、前出のSDGs営業マップをつくる。SDGs17目標に4つの営業を組み込んだものだ。

 

自社のマップをつくる前に、まず得意先(お客さま接点)のSDGsマップを準備する。自社のSDGs営業マップをつくったり、発展させていこうとしたら、必要不可欠になるからだ。

 

この論文は、一般消費財(食品、日用品)の業界向けに書いているため、BtoB営業が前提となる

 

つくるメンバーは、本社営業スタッフと、本社近くにいる広域営業や首都圏営業からも加わってもよいだろう。

 

まず、得意先(お客さま接点)の課題を知る。課題とは、方針、問題認識、すすめている施策、のすべてだ。論点(イシュー)と言ってもいい。

 

営業は、日常的に、得意先の窓口やその上司、他の部門にも、会い、方針、問題認識、すすめている施策を聞き取りしているはずだ。また、得意先がしたいことは、そのホームページや、オープンデータ(雑誌・新聞記事など)にもあらわれている。

 

それを、SDGsマップ上にあてはめていけばよい。

 

具体的には、大きな前出のマップを準備し、お客さま接点のイシュー(論点、課題)を付箋に書いて、該当する場所に貼っていく作業になる。複数グループで行い、最終的にひとつにまとめるとよいと思う。

 

この作業を省略することもできる。二俣事務所が作成した小売業のSDGsマップ67イシューを使えばよい。

 

これは、二俣事務所が小売業のキーマン課題ヒヤリング調査結果を2010年から蓄積、タイプ分けしているものをベースに、小売業SDGsマップとしてまとめたものだ。一企業の営業スタッフや営業マンがちょっと集まって抽出するよりも、総合的なものになっているかもしれない。ただ、もちろん、抜け漏れもあると思うので、それはそれぞれの企業で補足すればよい。

 

二俣事務所が整理した小売業SDGsマップは以下に示したとおりだ。

 

 

 

(4)わが社のSDGs営業マップをつくる

 

お客さま接点のSDGsマップが準備できたら、わが社のSDGs営業マップをつくる。

 

通常、この手の戦略立案は、まず、環境分析、5フォース分析、強み・弱み分析、SWOT分析などの「現状、外と内の事実」を広く深く知る作業をして、重点課題を抽出する。これを「フォアキャスティング」ともいう。しかし、このSDGsは、17の長期目標が人類と地球を維持するために必要不可欠、と定められている。なので、その「あるべき姿」を達成するために、できることは何か、という考え方からはいる。まず目標(あるべき姿)ありきの、計画・展開・検証なのだ。これを「バックキャスティング」ともいう。

 

「フォアキャスティング」は現状の改善に留まるが、「バックキャスティング」はこれまでにはなかった新しいアイデアがたくさん出てくる。そもそも、このSDGsは、企業に限らず、あらゆる組織で取り組まれている。とくに小さな地方自治体のほうが先行している。そこには、農家や商店主もいる。彼らは、大企業の営業のように日常的に現状分析させられてきたわけではない。あるべき姿から考えるバックキャスティングのほうがやりやすい。短時間で、革新的な方法が生まれやすい。

 

まず、本社営業スタッフ部門は、営業が現在もっているノウハウを示す事例やサポートメニューを整理しておき、それをマップづくりに参加する全メンバーに配布しておく必要がある。

 

実際につくるメンバーは、本社営業スタッフ部門と、本社近くにいる広域営業や首都圏営業からもすこし、さらに営業以外の機能部門、研究開発、生産調達、商品開発、リサーチ、コミュニケーション、ロジスティクス、経営管理、人事労務からもすこし加わってもらうほうがよいだろう。

 

つくり方は、前出のように、大きな前出のマップを準備し、17の目標に沿って当社としてできること=イシュー(論点、課題)を付箋に書いて、該当する場所に貼っていく作業になる。参加メンバーは前出の事前に配布された資料を見て、さらにそこにはないノウハウ・事例、さらにはこれから計画していること、も含めて、考え、抽出していく。複数グループで行い、24時間で1回とし、1回で終わらなければ、複数回実施して、発表しあい、最終的にひとつにまとめる。

 

以下に、まったく架空のメーカー営業の架空のSDGs営業マップを、そのサンプルとして示しておく。併せて、前出の小売業SDGsイシューと対比した表も添付しておく。

 

 

 

(5)併せて突出目標、追随目標、不要目標を定める

 

自社のSDGs営業マップをつくるとき、競合の力も意識してつくっていくと、自社の強み、弱みがよく見える。

 

たとえば、「3.すべての人に 健康と福祉を」目標については自社は競合より豊富なノウハウ・実績を持っているが、「8.働きがいも、 経済成長も (3)非価格で需要・売上をつくる」はノウハウ・実績が不足している-。

 

なので、抽出するイシュー(論点、課題)は、つぎの3つのことを意識してまとめる。

 

❶突出目標:競合と比べるとノウハウ・実績が豊富で、より強めたい目標

 

❷追随目標:競合と比べるとノウハウ・実績が不足で、ある程度追いついておきたい目標

 

❸不要目標:これ以上力をかける必要はないと判断できる目標(コスト抑制の観点からも)

 

マップ作成の過程で、メンバーは皆、共通の強み・弱み認識を持つだろうから、突出目標、追随目標はおのずと決まってくるだろう。ただ、その観点をより明確にする方法もある。

 

余力があれば、前出のA社と、ライバル社B社の、SDGs17目標についての価値を、5.方法・実績がたいへん多い 4.方法・実績が多い 3.方法・実績がある 2.方法・実績が少ない 1.方法・実績がたいへん少ない、のスケールで採点し、バリューカーブ分析をしてみるといい。

 

以下のグラフをご覧いただきたい。

 

A社としては、次のことがいえる。

 

●経済目標といえる「経済成長と働きがい」ではB社に負けている

 

●しかし、社会目標といえる「健康的生活」「持続可能なまちづくり」「気候変動対応」ではA社に勝っている。

 

なので、

 

①「健康的生活」「持続可能なまちづくり」「気候変動対応」の各目標の施策をもっと強く・豊富にする =突出目標

 

②経済的数値を上げていくにはやはり経済目標でライバル社にある程度追いついておく必要もあるので(調達窓口は自カテゴリーの生産性がノルマ)、「経済成長と働きがい(3)非価格で需要をつくる」で追いつく努力をする =追随目標

 

と、目標がはっきりしてくる。

 

突出目標と追随目標がはっきりしたら、SDGs営業を展開しながら、同時に、営業は、他の機能部署も、そのことについてのスキルアップ、新しい施策の導入を、すすめていく必要がある。

 

 

 

(6)イシュごとの事例集も添える。マニュアル・スコアカード・シート類の追記と、SDGs営業宣言

 

わが社のSDGs営業マップが出来たら-。

 

本社営業スタッフは次のことをする。

 

❶整理したイシュごとに実績事例や計画を整理して、マップに添える。

 

❷営業マニュアルを修正する。書き換えではない。追記である。なぜならSDGs営業はこれまでのノウハウも含めているから

 

❸スコアカードがあるなら、それも同じく追記する

 

➍営業がこれまで使ってきた目標管理などのマネジメントシートも、追記が必要になるだろう。

 

そして、SDGs営業宣言をする。社長もしくは営業本部長からの発出になる。

 

併せて、上記の新しいツールが配布できれば理想だ。

 

 

 

(7)プレゼンの冒頭に必ずSDGs営業マップをおいて展開をつづける

 

SDGs営業宣言をしたら、その展開にはいる。

 

対象は、すべての得意先である。すべての得意先のすべての提案の冒頭に、わが社のSDGs営業マップをおく。

 

まず、日常のヒヤリングや得意先の情報発信からまとめた得意先の論点(課題)を置き、それにたいしてわが社のSDGs営業マップを示し、わが社がお役立ちできることを示す。

 

小売業の課題は、その課題のそのままの整理でもよいし、前出の小売業SDGsマップを示して、その上に明示してもよい。

 

とくにキーアカウントとの取組会議でのプレゼンでは確実にこのSDGsマップを示す。

 

そうして、競合にはないまったく新しい営業方法として習慣化する。

 

もちろん、前記したように、このSDGs営業の展開と同時に、営業は、他の機能部署も、新しい目標・施策についてのトレーニング、さらに新しい施策の導入を、すすめていく必要がある。

 



5.コロナ禍が営業を変える

 

営業とは「会社が準備した価値を全コストの負担者であるお客さまに届け、費やしたコストとマージンを回収する者」である。

 

しかし、以下に示したグラフのとおり、その営業職の人数は、2000年の468万人をピークに減少の一途をたどり、2015年には336万人にまで急減している。

 

理由は、会社が費やしたコストとマージンの回収方法が従来の営業の方法ではなくなってきたからだ。従来の営業マンが動いて顧客と商談しながら販売業務をこなしていく、おたがいの生産性を上げていく、というやり方から、パソコンやスマホなどによるネットを通じた顧客との情報のやりとりで販売業務、お互いの生産性向上業務を消化していくやり方へと変わってきたからだ。

 

そして、今回の新型コロナウイルスの外出自粛要請、テレワーク促進で、主要ターミナル駅の利用者は大幅に削減された。これは感染者抑制につながるとともに、従来の営業方法がなくてもやっていけることを証明したといえる。

 

これからは、従来の「会社が準備した価値を全コストの負担者であるお客さまに届け、費やしたコストとマージンを回収する」作業は、BtoB、BtoCの両面において、ITの進展、ネットを通じたやりとりの普及により、もっともっと少人数で済むようになるだろう。

 

一般消費財の営業も、この流れにのりながら、強者、「単品営業」「カテゴリ営業」の覇者たち、が弱者を取り込むかたちで減少がつづくと思われる。

 

しかし、営業が、「販売業務をする者、お互いの生産性向上を追求する者」から、「社会と経済を一体のものとして捉えて持続的開発を推進する者」、つまりSDGs営業をすすめる者、いわば「SDP(Sustainable Development Promorter)」、に変化したとしたら、その者たちは、世の中から求められ続けるのではないだろうか。