1.2020年以降の営業
2.連結力営業とは
3.量販店の課題の1/3は連結力営業でないと解決できない
4.量販店の上位課題は連結力営業でないと解決できない
5.連結力営業の代表的テーマ
6.業務用営業は連結力営業だが取組テーマの幅とブランド化が課題
7.連結力営業が意味するもの
8.連結力営業がもたらすもの
9.三体
10.三体営業にする方法
2015年、二俣事務所は、製造業・卸売業・小売業・サービス業の営業キーマン69人に、お客さまとお客さま接点産業の市場支配力がさらに高まる「2020年以降のサプライヤー(製造業・卸売業)の営業とはどんな営業になるか」、というインタビュをさせていただいた。そのときのまとめが以下の8つ。とくに(2)バリューチェーンと(4)内外の連結の進展の話が目立っていた。
いまは2019年8月、「2020年以降」はすぐそこに迫っている。69人の見解は当たっていた。
サプライヤー(製造業・卸売業)の従来の営業は、本社が揃えた商品を、本社が準備した広告や販促施策を活用して、本社が決めた価格範囲で、取引先に販売し、お客さまに届けていた。そのなかで営業でできる範囲は、商品力を中心とした会社の力を示すこと、その商品の意思決定にかかわる得意先キーマンの信頼を得ること、得意先のカテゴリの課題解決に非価格・価格の両面で貢献すること、だった。それが、営業の役割だった。下図に示したとおりである。
連結力営業とは、そんなこれまでの営業とはまったく違う。お客さまとお客さまに接する産業が市場支配力が高まった時の必然として、お客さま接点の課題に応じて、研究開発、生産調達、商品開発、リサーチ、コミュニケーション、チャネル政策、営業、ロジスティクス、経営管理、人事労務といったバリューチェーン全体から適宜機能を連結し、また社内の他事業部門や外部の協力機関も連結して、課題解決に貢献し、販売実績の向上につなげる営業である。以下の図になる。
連結力営業は、これまでたくさん出てきた製配販協働の取組をすべ含む。
1990年の米国のウォルマートとP&Gの間で交わされた契約を機に広まった小売業と製造業の間でお互いの経営資源をより効率的・有効に活用しあう関係になろうという「戦略的同盟」 もしくは「製販同盟」といった取組や、とくにロジスティクスの面で製造業・卸業者・小売業が連携して流通システム全体を効率化とようとする取組「ECRefficient consumer response」や、購入客にずっと顧客になり続けてもらう取組「CRMCustomer Relationship Management 」をはじめとする、お客さまにたいし、従来の営業機能を超えて、バリューチェーン全体の中から連結を起こして取り組んでいこうというビジネスはすべて含まれる。もっと一般的に使われている言葉でいうと、コラボレーション、JBP(ジョイント・ビジネス・プランorパートナー)、ダイヤモンド営業、協働取組、プライベートブランド・留置商品開発、直接取引・産地直送、といったものもすべてそうだ。
はっきりとことわっておくがプライベートブランドをつくるという小さな次元の話ではない。
なぜ連結力営業なのか-。それは、お客さまとお客さまに接する産業の市場支配力が高まった時代の必然、である。
が、もうすこし、具体的に、その理由となる事実を示しておこう。二俣事務所では、2010年来、スーパー、総合スーパー、ディスカウントストア、ドラツグストアの、「量販店」と呼ばれる小売店の意思決定者たちに自社・自部門の課題をヒヤリングしてきた。毎年、80~100社になる。ヒヤリング対象は、本社調達部門の担当者(バイヤー)、そのマネジャ、商品本部長、営業本部長、販売本部長、販促課長、経営管理部門、などで、毎年、バイヤーとその上司のマネジャが最も多くを占めている。ちなみに、2018年にヒヤリングしたのは量販店82社で、そのヒヤリングで発せられた課題は、売上増・利益増などの抽象的課題を除くと、小分類で172タイプ969件にのぼる。よく雑誌・新聞に掲載されている“メディア向けの課題”ではない。わたしもしくし製造業・卸売業の営業が直接聞いたリアルなクローズド課題だ。中分類で課題の件数を整理すると以下のようになり、CSV、ロス撲滅、ローコスト、需要創造、人づくり、店づくりの大きく6つの課題が存在しているのがわかる。
そして、2018年の小分類172タイプ969件の課題のうちの1/3(65タイプ294件)は従来の営業では解決が困難な、連結力営業でないと解決できない課題となっている。次ページより中分類課題ごとにみてみよう。
CSVとは、前出のマイケル・E・ポーターが提唱したことで、企業が社会貢献することで経済的価値と社会的価値をともに創造しようとすることだ。安全安心、健康、社会貢献、エコロジーなどがそれにあたる。
2018年は13タイプ54件があがっている。そのすべてが連結力営業でないと解決できない。たとえば、
・地産地消に応えようとしたら生産部門の協力がないとできない
・鮮度感に応えようとしたら、製造から納品までの時間を縮めるためには生産部門や物流部門の協力が要る
・健康価値商品の提供は、すでにつくってあるナショナルブランドでなら対応できるが、得意先が望むとおりの健康価値商品を準備しようとしたら生産部門やマーケティング部門の協力が要る
・リデュース・リユース・リサイクルのしくみづくりに応えようとしたら、外部の専門機関の協力が必要になるだろう
そもそも、CSVはトップや経営計画部門の課題として出る場合が多く、調達部門窓口は売上・利益の結び付きにくいとしてその施策の採用率は低かった。ところが、近年は、調達部門との交渉テーブルにものぼるようになってきている。
ロス撲滅関連の課題とは、在庫削減、調達ロス・サプライチェーン改善、定番品揃えロス、販促ロス、展開ロス、ロス撲滅のための協働取組会議などのことだ。
単品の課題解決力+カテゴリーの課題解決力の営業の時代、サプライヤーと量販店が取り組む課題としてはもっともポピュラーなものだったといえる。
2018年は30タイプ153件があがっている。
そのうちの調達ロス・サプライチェー改善の8タイプ21件は、従来の営業機能だけの営業では困難だ。連結力営業でないと解決できない。
たとえば、
・コスト削減につながるサプライチェーン改善は、ロジステイクスや生産部門の協力なくして成り立たない
・直接取引や調達組織の集約の要請に応えるには、ロジステイクス部門の協力と、チャネル政策、卸の大きな交渉が欠かせない。
・新しいグローバル調達の要請に応えるとしたら、調達部門の協力が必要になる
・物流効率化の要請に応えるには、ロジスティクス部門とすべてのロジステイクスプロセスをチェツクしての改善取組が必要になる
ローコスト関連の課題とは、納価抑制、プライベートブランド拡充などの原価抑制、リベート・アローワンス(取引ごとの協賛金)による利益確保、物流費抑制・サプライチェーン見直し、物流集約、工場直接引き取りなどの低コスト物流への転換、販促費抑制、人件費抑制、設備費抑制などのことだ。
2018年は7タイプ20件が挙がっている。そのうち6タイプ15件は、連結力営業でないと解決できない。
たとえば、
・一定額以上の納価抑制は、本社の判断が要るし、生産・物流の協力を得ないと実現できない
・プライベートブランド拡充の要請も、マーケティング部門が参加する必要があるし、生産部門の判断が要る。
・物流費抑制、サプライチェーンの話はロジスティクス部門が前面に出る必要がある
需要創造関連の課題とは、お客さまを増やす、つまり売上・利益創造にかかわるすべてのことだ。生鮮食品の拡充、差別化や利益確保の品揃え、低価格化、特売や価格のハイ&ロー、需要を喚起する非価格・価格の情報発信に満ちた売場づくり、異カテゴリの関連販売、高齢者など重要視するターゲット顧客に向けた施策、カード会員の拡充やその特典の充実などによる固定客づくり(CRMCustomer Relationship Management)などのことだ。
2018年は78タイプ415件が挙がっている。そのうち10タイプ72件は、連結力営業でないと解決できない。
たとえば、
・生鮮食品の拡充に応えるといっても、これからは生の食材を増やしても売れない。プロセスセンターや産地でカットや加熱加工されてすぐ食べられる状態にまでしたものしか売れていかない。そのためにはサプライチェーン全体の作り直しになる。
・プライベートブランド拡充の要請に応える場合も、マーケティング部や生産部の協力が欠かせない
・CRMに取り組む場合も、個々のお客さまの購買履歴データの分析から考えていかなくてはならない。とても営業ができる話ではない。
人づくり関連の課題とは、モチベーションアップ、スキルアップ、作業改善、などのことだ。
2018年は14タイプ93件が挙がっている。そのうちのほとんどである12タイプ89件は、連結力営業でないと解決できない。
たとえば、
・人手不足、人員削減の時代に、人のモチベーションアップというテーマを与えられたとき、みなさんはどう応えるか。人事部の協力を得て成功体験を語ってもらう、それほど違わない環境にある社内の別事業部門の成功事例をその責任者に語ってもらう、いや、もっと外部の専門家をひっぱってきて語ってもらう-。そんなことまで必要になってくる。これまでのように、商品勉強会をやってデイズニーランドや海外視察旅行に招待するコンクールを提案するといったレベルでは済まないはずだ。
・働き方改革とか、女性活用とか、政府が推進する政策にのりながらもどうしたらいいか困り果てている得意先には、どう応えるのか。やはり、まずは、社内外の人事部とか、働き方改革推進チームとか、女性活用チームとか、そんな助っ人が要る。
・もしかしたら、いま、いちばん大きな課題であろう、人手不足の中の作業革新。どのバイヤーも口にするようになったこの課題にはどう応えるのか。売れ筋商品だけに絞り込んだ売場にしてしまえばいいのか。いやそれではお客さまにとって魅力のない売場をつくるだけだ。売場の作り方、作業の仕方を根本的に変える提案を準備する必要があるのではないか。
店づくり関連の課題とは、新店・改装、新業態づくり、既存業態改善、無店舗販売、新事業開発や他社との合従連衡などのことだ。
2018年は30タイプ93件が挙がっているが、そのすべてが、連結力営業でないと解決できない。
たとえば、
・新規出店や改装、新業態開発にたいし対応しようとしたら、従来は商圏分析のうえでの仮説出し程度がせいいっぱいの課題貢献だった。本格的に手伝おうとしたら商圏のお客さま調査、そのうえで競合環境調査の中でのポジショニングや店づくりの提案まで要る。
・既存業態の改善も、本格的に手伝うのなら、お客さま調査、客動線調査、競合店調査などの実施と、そこからの改善課題の整理と提案が要る。
・無店舗販売への対応も、商品・価格・販促施策・発信情報、こまわり・レイアウトなどの視点での分析、そこからの改善提案が要る。
つまり、どれも、リサーチ部門や外部の専門機関の協力が要る。
もっというと、量販店の重点上位課題は連結力営業でないと解決できない-。
以下は量販店キーマンが語った課題の多さのランキングを示したものだが、左は2018年、右は5年前の2013年のランキングになつている。赤く色づけしたのは連結力営業でないと貢献できない経営課題である。
5年前も現在もトップの課題は「本部施策の店頭実現」であることに変化はないが、ベスト10の上位重点課題をみると、5年前は連結力営業でないと解決できない課題は「PB拡充」の1つだけだったが、現在はベスト10中7つが連結力営業でないと解決できない経営課題レベルのテーマになってしまっている。とくに、人手不足、作業改善が上位にきているのが象徴的だ。
ちなみに、トップサプライヤーたちが盤石の競争優位を確立するために整備したカテゴリの課題解決力がないと解決できないカテゴリ課題群は、この5年で大きく後退した。連結力営業でないと貢献できない経営課題群と入れ替わるかたちで-。
、右図で青く色づけしたのがカテゴリの課題解決力がものをいうカテゴリ課題に相当するものである。5年前はベスト10のうち4つを占めていたものが、2018年には1つも入っていない。
人手不足の時代、調達窓口にとっては、担当のカテゴリの計画を代わりに立ててくれるカテゴリの課題解決力保有トップサプライヤーは役に立つ存在であることには変わりはないだろうが-。
では、連結力営業の代表的なテーマにはどんなものがあるか。
研究開発、生産調達、商品開発、リサーチ、コミュニケーション、チャネル政策、営業、ロジスティクス、経営管理、人事労務といったバリューチェーンの各機能ごとに存在する。その内容は具体的には紹介できないが大まかな考え方を次頁より示していこう。
まずは、生産調達の領域から。
ここでは新しい調達サプライチェーンづくりが進んでいる。
量販店の最大の課題は、前記したように人手不足であり、それにともなう作業効率化である。
食品を扱う量販店では、生鮮品にたくさんの人手、設備が費やされている。そこをなんとしても省力化したい。
量販店側から「商品づくりやパックを生産側でやってくれないか」という要請も出ている。生産・卸売業側も、産地で売場に並べられる状態まで作り込んでしまう「産地パック」の取り扱いを増やしましょうと積極的に提案している。
製造業・卸売業からすると、営業と、生産・商品開発・ロジステイクスがチームを組んであたる取組になっている。
たとえば、右のような商品がそうだ。
しかし、現実は、思ったほど進んでいない。求めている量販店側が、自分たちの経験の中の多くを占めるバツクルームやプロセスセンターで商品つぐりしたりパツクする仕事を無くすことに、恐れも抱いており、ベテラン社員からの反対も多いからだ。
さらにもう一歩進んだのが「サラダチキン」だ。
サラダチキンはあらゆる鶏むね肉料理に対応できる加熱味付商品である。これは、量販店のバツクルームやプロセスセンターの作業を無くすだけでなく、お客さまの調理の手間・時間も大幅に減らす「時短」商品でもある。
製造業・卸売業は、自社ブランドだけでなく量販店オリジナルブランドとしての準備も多いため、営業とともに、生産・マーケティング・ロジスティクスがチームを組んで、対応することになる。
また、この商品は、製造後3~4週間冷蔵保存できるため過剰在庫にもなりにくい。エブリデイ・ロー・コストを基本方針として最小限の人員で運営しているドラッグストアも、冷蔵でも比較的取り扱いやすい商品として導入している。つまり、生の鶏むね肉では取り扱いが難しかったお客さま接点にもサラダチキン化したことで入るようになってきたわけだ。
「研究開発、商品」の分野では、むかしから「プライベート・ブランド」開発が進んでいる。量販店とサプライヤーの両方の会社名が明記される場合は「ダブル・ブランド」、サプライヤーの会社名だけが明記されて販売場所がその量販店に限られている場合は「留型商品」と言われてきた。
サプライヤー側は、プライベートブランド開発に臨む場合は、営業と、商品開発・マーケティング、生産部門がチームを組んで当たることになる。
ところが、このもっとも古くからあるといえるオリジナル商品開発というテーマは、もっとも多く挫折している。理由は、以前は利益確保が主眼に置かれて低価格の原材料・製法ばかりが優先されてきたこと(現在は高付加価値品が志向されはじめたが)、モノを作る経験がない量販店側にブランドを開発・育成する方法論がきちんと認識されていないこと、そして何よりも戦略主体者が量販店とサプライヤーの2者になることで統合され、長期的にみたブランド育成管理が難しいこと。などが挙げられる。
以下は、3年前に、わたしが製造業数社に対し「量販店オリジナル商品を開発・育成する際の留意点」をヒヤリング調査したときのまとめである
リサーチ部門や外部のIT系リサーチ機関の営業への参加は、いまや営業にとって欠かせないものになっている。
お客さまの消費行動が20世紀と一変してしまっているからだ。スマホという情報機器を常に持参しながら消費行動するようになっている。たとえば、文具や家電はEC化率(情報機器を通じてのサプライヤーとの直接取引)が30%を超えてしまっている。つまり、リアル&バーチャル消費になっている。
これにキャッシュレス消費が広がっている。そこにプロモーション施策ものっかっている。それが、リアル&バーチャル消費にどう影響しているのか-。
小売業も、卸売業も、製造業も、その意思決定構造をよく理解できていない。
これからは、お客さまの新しいリアル&バーチャルの消費行動を分析しながら、取組は進んでいく。
高齢者の構成比は上がり続ける。なので、高齢者の消費行動の理解も、大きなテーマであり続ける。
そもそも量販店は、ファミリーや若い世代の消費に対応して設計されている。高齢者からすると不便な点はたくさんある。
たとえば、高齢者は医薬品や健康食品の売場によく立寄るが、それとともによく立寄るのは、惣菜売場だったりする。
高齢者の消費行動を解明していこうとしたら、営業とリサーチ部門や外部のリサーチ会社とのチームが要る。
お客さまの新しい消費行動「リアル&バーチャル」「キャッシュレス」は、その事実をリサーチして把握していくだけでなく、実際にいくつもの施策を組み合わせた実験を繰り返し有効な組み合わせ方を模索していく必要がある。
たとえば、リアル施策だけでも変化は起こってきており、店舗選択で最も効くのは、特売ではなくもポイント施策になってきている。では、ポイント施策に何割引きが組み合わせるとより有効なのか?そういった疑問も出てくる。
さらに、そこに、SNS施策やマーケットプレイス施策を組み合わせるとどうなるのか...。
リアル&バーチャル施策で検証すべきことは尽きない。
重要なのは、リアル&バーチャル施策レビュを蓄積して、法則のようなものを見つけ出していくことだ。
これも、量販店にとってたいへん大きなテーマであり、サプライヤの営業にとっては、コミュニケーション部門とチームを組んで取り組んでいくべきテーマといえる。
もっとも連結力の必要性が高まっているのはチャネル政策かもしれない。
製造業・卸売業の販売チャネルとそれに沿った販売体制は市場の拡大、多様化とともに多岐にわたるものになった。また、一方で、お客さま接点産業の集客の寡占化、同業異業態の合従連衡の進展とともに、ひとつのお客さま接点産業に、ひとつのサプライヤーから、多数のチャネル別担当者が営業に行くという極めて無駄、非効率な営業実態も生まれている。
たとえば、以下の図にあるように多くの消費財の業種のサプライヤーは、小売・業務用・バーチャル(EC)といったお客さまが商品を購入する目的のお客さま接点に対する営業と、法人・レジャ・交通・商店街の商店といったお客さまが生活するうえで必ず接するがそこに小さな商品消費場所も付属しているお客さま接点に対する営業に、大きく2分され、そのうえでその細かな接点ごとに営業部隊が編成されている。SM(スーパーマーケツト)を担当している営業部門は、SMが惣菜比率を上げる一方なので、もはや別の業務用営業部門と一体となって動く必要があるし、ほとんどの小売がバーチャル(EC)事業も進めていることも考えるとバーチャル(EC)担当部門の協力も欠かせない。また、どの小売も拡大する一方の高齢者への販売を増やそうとしおり、小売担当の営業は病院・介護施設などを担当する営業部門の協力が必要になる。このように、多様化したチャネル別営業部門は、連結しあってこそビジネスチャンスが拡大する状況になってきている。
連結力営業を進めようとしたとき、もっとも多くテーマとして挙がるのは、おそらく、営業とロジスティクス部門がチームを組んでの新しいサプライチェーンづくりだろう。
営業部門とロジスティクス部門の距離は業種や採用している営業方法によって違う。
加工されいて長く保存できる商品を扱う業種は営業(商流)と物流がほぼ完全に分離されている。しかし、生ものや天候で需要が瞬間的に大きく変動する時が多い飲料などの業種は、営業(商流)と物流が、たとえへ部門は別でも日常的に密着した仕事をする必要がある。
また、商品やロジスティクスなどの各バリューチェーンを連結させない、従来の単品の課題解決力営業やカテゴリーの課題解決力営業をすすめている営業部門は、物流はまったく別の部門と捉えている。しかし、連結力営業を進めマーケ部門やロジステイクス部門を連結して仕事を進めている営業部門は、営業会議や商談に常にロジスティクス部門が同席している。
ロジスティクスの改善、新しいサプライチェーンづくりは、既存のサプライチェーンの上で展開される従来の納価条件だし、リベート、アローワンスなどの膨大なトレードプロモーションコスト投下よりもはるかに大きな効果を生む。改善すべきところも、小売とサプライヤーのロジステイクス担当同士が話し合うことで、その物流プロセス上でたくさんみつかってくる。
企業が社会貢献することで経済的価値と社会的価値をともに創造しようとするすることをCSV(Creating Shared Value)
というか、小売店の経営管理部門やトップからはよく出されるテーマだ。
実際に、私が毎年計測している量販店キーマン課題ヒヤリング調査では、これまで右記の小分類で44タイプのCSV課題挙がっている。
とくに、生産履歴開示、地産地消・地産全消、健康価値商材開発、地域社会行事の貢献、地域の教育・スポーツ支援、地域コミュニティづくり貢献、環境にやさしい商品・パツケージづくり、といった話はよく挙がっている。
サプライヤー側も、営業ととくに社会貢献などを担当している経営管理部門、さらにはマーケティング部門などがチームを組んで取り組む必要がある。
製造業や卸売業の経営管理部門には、経営企画室などのように企業戦略を立案している部署もある。実は彼らは経営戦略・マーケテイング戦略立案の専門家でもある。
営業と彼らが連結して動くことで、プロセスコンサルが可能になる。プロセスコンサルとは、得意先の人たちに自分たちの戦略をつくってもらう手伝いをすることだ。ファシリテーション(戦略立案を促しサポートする者)の技術を持っている人、戦略フレームに通じている人がいればできる。つまり、小売店自身の戦略立案を司会者みたいな役回りで手伝うことだ。
これまで、消費財のサプライヤーは、小売店の販売データとその分析ノウハウを豊富にもち、小売店のマーチャンダイジングの手助けをするのが一般的だった。前記している「カテゴリーの課題解決力」がまさにそれにあたる。しかし、これはあくまで、小売店のマーチャンダイジングの内容(=コンテンツ)において理解を深めて、その計画を手伝う者であり、小売店の戦略を小売店の人たち自身につくりあげてもらうものではない。こういう手伝い方をよくコンテンツコンサルという。コンサルティング会社の人たちがやっているのがこれにあたる。
製造業・卸売業は、販売データ分析提案だけでなく、このプロセスコンサルにも進出すればよいのだ。小売業はごく一部しかプロセスコンサルをするプロを採用していない。代わりに、製造業・卸売業の経営計画部門がその仕事にあたればいいのだ。担当の営業部門とチームを組んで。
ちなみに、消費財のサプライヤーでこのプロセスコンサルをもつとも大々的に展開しているのは、たとえば富士ゼロックス教育総合研究所がある。
みぎの女性の管理職比率の表を見てもらいたい。ためしに食品メーカーだけ取り出してみたがカルビーは約2割が女性管理職だが、伊藤ハムは1%強だけに留まっている。
働き方改革、女性活用は、日本が先進国と比べてあまりにも低レベルの現状であることを憂い政府がその改善を一大方針として掲げており、日本のすべての企業が大きな課題として設定し、具体的に何らかの取組を進めている。
小売業も、卸売業も、製造業も、それぞれの試行錯誤の結果を共有しあい、社会全体の働き方、女性活用を上げていけばいいのだ。
営業と、各社におそらくかならずある働き方改革担当および女性活用担当は、チームを組んで動いていけばいいのだ。
人事労務の部門こそ最大の課題を抱えた部門かもしれない。人手不足、その中の生産性向上、モチベーションアップに真正面から取り組んでいる部門だからだ。したがって、人事労務の課題に対応するということは、生産、ロジステイクス、商品、コミュニケーション、チャネル政策、などのすべての部門の課題に大きくかわることになる。たとえば-、
営業は、生産・商品・コミュニケーションの各担当者と組んで最少人数で運営できる売場開発に取り組むことになる。
営業は、生産・商品・ロジスティクスの各担当者と組んで最少人数で物流・作業できるサプライチェーン開発に取り組むことになる。
営業は、コミュニケーションの担当者と組んで売場の人の手間がまったくかからない売場販促のしくみ・設備の開発に取り組むことになる。
営業にはもともと業務用営業というジャンルがある。生産財・中間財、一般消費財でも原材料の営業、が業務用営業に属する。
これまで紹介してきた連結力営業の代表的テーマでは、
・調達サプライチェーンづくり
・オリジナル商品開発
がメインテーマになっている。
業務営業の第一の課題は、この連結力営業の幅だ。
前出の連結力営業で紹介したその他の代表的テーマは業務用営業ではほとんど組み込まれていない。
たとえば右記はある業務用メーカーのキーアクションを記録したものだが、
・研究開発・商品開発部門が参加してオリジナル商品開発
・得意先の重点課題を把握してそこへのお役立ち
・得意先の得意先・お客さまの課題を発見
・原材料や製造方法についての得意先社員教育
が主体であり、オリジナル商品開発まわりの仕事に集中している。
業務用営業の第二の課題は、ブランド化だ。
・調達サプライチェーンづくり
・オリジナル商品開発
が主体だと同業者との競争優位と呼べる差異になりにくい。
〇〇カテゴリだったらココという圧倒的な技術、生産技術、調達網が要る。もしくは、業務用ではなく家庭用で信頼のブランドがつくれていればそれは業務用でも選択の手がかり、信頼の根拠になる。
この連結力営業が意味するものをまとめてみよう。
消費財でも生産財でもサプライヤー(製造業・卸売業)の営業は、
まずは、みんな単品の課題解決力だった。その商品の価値を示すこと、その単品商品の意思決定者(キーマン)人脈をつくること、が営業の中身だった。単品の価値は価格、非価格で示された。価格をプッシュ型もしくはトレードプロモーション、非価格をプル型もしくはコンシューマープロモーションと呼んだ。その競争が繰り広げられ、うまくいくと大きなシエアを獲得でき、それを原資として、さらに有利な営業が展開できるようになった。
つぎに、単品の商品力だけでなく、その単品が所属するカテゴリー全体の計画に関与することでより大きな競争優位が獲得できるということがわかってきた。言い換えると得意先調達部門の仕事の代行だ。単品の課題解決で成功したサプライヤーで先見の明のあるところは営業にカテゴリー全体をマネジメントできるノウハウを教育したり、コンピュータ・プログラムを与えたり、営業部門にカテゴリ全体のマネジメントができるサポート部門を付属させたりした。ここまでの体制ができたサプライヤーたちは次々と得意先のカテゴリーマネジメントを代行するようになっていった。そしてその競争優位は盤石となった。下位のサプライヤー、単品は、そのカテゴリーマネジメント力によって弾き飛ばされるようになった。どんなによい機能的価値をもつ単品を持ち込んだとしてもダメだった。消費財ではこの時代が21世紀にはいったあたりから15年以上続いた。一部のトップサプライヤーと下位のサプライヤーの差はどんどん開いていった。
得意先の経営課題、つまりバリューチェーン全体の課題に対応する「連結力営業」は、この調達部門の課題に対応する「単品の課題解決力」+「カテゴリーの課題解決力」という盤石の競争優位営業に風穴を開けた。わたしは、これによって、営業は、「単品の課題解決」「カテゴリーの課題解決」「経営課題の課題解決」の「三体」の体系に進化すると考えている。
「単品の課題解決力」+「カテゴリーの課題解決力」で盤石の競争優位を築いた上位サプライヤーたちの多くは、そんなところまでする必要はない、それは無駄なこと、と思っているが-。
卸売業は1990年代はじめ頃より「フルライン+ロジスティクス+リテールサポート」を生き残りの大方針として進んでいた。ある単品・カテゴリだけでなく得意先が販売するものはすべて扱う、それを必要なときに必要なだけ届ける物流システムを整備する、または物流センターを代行する、得意先のマーチャンダイジング(品揃え、売場づくり)をサポートする、ということだ。
これで卸売業の合従連衡が進んだ。しかし、利益は向上しなかった。「モノの中間流通」というビジネスモデルでは利益は生まれにくいことがわかった。
卸売業にとってもそれまでやってきた「フルライン+ロジスティクス+リテールサポート」は調達部門の課題に対応する「単品の課題解決力」+「カテゴリーの課題解決力」でしかなかった。利益を創出するには得意先の経営課題、つまりバリューチェーン全体の課題に対応する「連結力営業」でなくてはならないことがわかってきた。たとえば、製造業がつくった商品を運ぶ、低価格が魅力だけな商品をつくる、ではなく、得意先の競争優位をつくる商品を、世界を視野に、生産・調達・商品調達・プロモーション・ロジスティクス全体で考え、設計し、展開するということだ。
消費財の家庭用事業とは、自分の意志で生産したものを市場に展開する事業のことだ。業務用事業とは、得意先の意志で生産したものを(もしくは得意先の意志にあった既製品を)、およびそれによって組み立てられたサプライチェーンを得意先に提供する事業のことだ。連結力営業とは、まさにこの家庭用事業と業務用事業の融合にほかならない。
従来の営業とは「モノの取引を行う者」である。もうすこしきちんと言うと「営業とは会社が準備した価値を全コストの負担者であるお客さまに届ける者」である。なので、その仕事は、自社の価値をお客さま・得意先・市場の関与者に伝える、得意先及び市場の関与者の人脈をつくる、得意先の課題に対し価格・非価格の方法で応える、だった。
連結力営業になると、「営業とは会社が準備した価値を全コストの負担者であるお客さまに届ける者」という大使命は変わらないが、その駆使する機能の範囲が比較にならないほど大きくなる。
市場・得意先から問題・チャンスを発見して、研究開発、生産調達、商品開発、リサーチ、コミュニケーション、チャネル政策、営業、ロジスティクス、経営管理、人事労務といったバリューチェーン全体から適宜機能を連結し、また社内の他事業部門や外部の協力機関も連結して、課題解決に貢献し、販売実績の向上につなげる営業である。
これは、「営業マン」というよりも、市場を創造する「マーケター」とか「起業家」と呼んだほうが適切ともいえる。
わたしは、営業が60過ぎても経営やマーケティングの経験者と同じように世の中から求められるようになるためには、営業起点のマーケティング、の体系を確立し、語れるようにならないといけないと考えてきた。また、それは。お客さまとお客さまに接する者が市場を支配するようになつた現代においては至極当然なことと思っている。
この連結力営業は、そのことを具体的に示した営業の姿である。控えめにいうと、商品起点マーケティングと営業起点マーケティングの並立であり、それはトップダウン経営とボトムアップ経営の並立を意味している。
前出のように、営業が、従来の「単品の課題解決」「カテゴリーの課題解決」の営業に、新たに「経営課題の課題解決」の営業を加えて「三体」に進化した場合、企業実績にはどれほどの影響をもたらすか。
その検証は、ごく一部のサプライヤーでしか為されていない。しかし、その実績は、明らかに連結力営業の導入が全事業の業績を支えることに役立つことを証明している。
サプライヤーの営業が、単品の課題解決力+カテゴリーの課題解決力(カテゴリーマネジメント)+経営の課題解決力(連結力営業)の「三体」に進化した場合、三体それぞれの営業の概要は以下のようになる。
三体営業は、「三体」それぞれの対象得意先を決め、そこへの計画を立て、そこには4つの営業※前出が網羅されていることを原則とし、そのPDC※前出を追う。あくまで、実際の計画・展開を通じて、情報の共有や、ノウハウの追加を進め、営業を組織能力としていく、「経験」重視の進め方だ。