1.営業のマーケティング
2.営業のマーケティングの「商品」
3.営業のマーケティングの「流通」
4.営業のマーケティングの「コミュニケーション」
5.営業のマーケティングの「営業」
6.営業のマーケティングの「ロジスティクス」
7.営業のマーケティング戦略
会社にとって一番たいせつなものは何か。ひとつは会社であり、そこではたらく仲間たちだろう。
でも、その会社が存在する理由があるはず。それも、自分たちの会社と同じくらいたいせつなものだろう。
では、自分たちの会社が存在する理由とは何か。ドラッカーはこう言っている。
「会社のコストとは、製品やサービスを購入しその効用を得るために、最終消費者が支払うものである」
最終消費者(消費財なら消費者、生産財なら使用者)は「自分たちの会社がかけてきた全コストの負担者」なのである。
この「全コストの負担者」こそ、もうひとつのたいせつなもの、会社が存続する理由である。
そして、この「全コストの負担者」にむかいあう手段としてマーケティングがある。
権威者たちはマーケティングのことをつぎのように定義している。
■米国マーケテイング協会
マーケティングとは、顧客、依頼人、パートナー、社会全体にとって価値のある提供物を創造・伝達・配達・交換するための活動であり、一連の制度、そしてプロセスである。
■日本マーケテイング協会
マーケティングとは、企業および他の組織がグローバルな視野に立ち、顧客との相互理解を得ながら、公正な競争を通じて行う市場創造のための総合的活動である。
■フィリップ・コトラー
マーケティングとは、製品と価値を生み出して他者と交換することによって、個人や団体が必要なものや欲しいものを手に入れるために利用する社会上・経営上のプロセス。
どれもちょっと難しい。わたしが学んだ水口健次はつぎのように定義した。
マーケティングとは、全コストの負担者である顧客の好意と購買と満足をめぐる企業間競争の考え方と技術である(お客さまお役立ち競争である)
このほうがずっとわかりやすい。なので、わたしも水口健次の定義にならってマーケテイングをこう定義する。
マーケティングとは、全コストの負担者である消費者や使用者の好意と購買をめぐる競争の考え方と技術である
そのマーケティングの技法として有名なのが、1960年代にアンドリユー・マッカーシーが整理した、製品(product)、価格(price)、流通(place)、プロモーション(promotion)の「4P」である。「何を」(製品)、「いくらで」(価格)、「どこで」(流通)、「どのように伝えて売るか」(プロモーション)、ということだ。つまり、マーケティングは、商品をつくって売る手法として発達した。正確には「商品のマーケティング」というべきだろう。
21世紀になると、フィリップ・コトラーとケビン・レーン・ケラーが、この4Pの中身を下図のように具体的に整理し直している。
マーケティングの技法については、さらに新しい整理もいくつか出ているが、わたしが経験した限り、いまでも、企業においてマーケテイングを計画する場面でもっともよく使われている技法は、この「4P」である。
しかし、いま、マーケティングの技術は「商品のマーケティング」の体系だけでよいのだろうか?
産業別就業者数をみる。商品をつくる者の就業者数(農林業・漁業・工業・建設業・製造業の合計)の割合は、1968年時点では55%あったが、年々低下の一途をたどり、2002年の時点で35%にまで低下してしまっている。代わりに拡大したのお客さまに接する者、つまりサービス業や小売業の人たちだ。全体の65%を占め、商品をつくる者の2倍の規模となっている。
消費財の産業でみてみる。就業者数が増えているお客さまに接する者のひとつ、小売業をみても、集客の寡占化をすすめる組織小売業がその規模を拡大しつづけ、商品をつくる者である製造業から市場の支配権を奪っている。
となると、これからは、「商品のマーケティング」だけでなく、お客さまに接する者に対峙する者のマーケティングの技法が体系化されていなくてはならないのではないか。つまり「営業のマーケティング」が。
お客さま接点にかかわる人が中心にすわる時代の「営業のマーケティング」になると、その技術も変わってくる。「4P」の「何を」=商品、「どこで」=流通、「どのように伝えるか」=コミュニケーションに加え、「お客さま接点とどのように交渉するか」=営業、「お客さま接点やお客さまにどのようにして届けるか」=ロジスティクスが重要になる。また、お客さま接点を起点とした組織の再構築が必要になるため、「組織運営」も重要になる。以下のとおり。
「5F+組織運営」を考えるときは、お客さまやお客さま接点とむきあう営業ゆえに「市場の関与者構造」という商空間を描いて考える。たとえば一般消費財の場合、全コストの負担者であるお客さまの好意と購買を獲得するには、どの市場にもいる5人の関与者の理解と説得が必要になる。5人の関与者とは、お客さまと、そこに到達するまでの間で関与しているお客さま接点、中間流通、生産者(自社)、影響者である。それに競合者を加える。この「市場の関与者構造」は、大前研一が1980年代に考案した、顧客(customer)、自社(company)、競合(competitor)の3者の動向から考える「3C」というフレームに似ているが、それ以前、すでに1960年代に水口健次が「ペンタゴンモデル(市場の関与者構造)」として考案している。
一般消費財の製造業の立場で描くと以下の配置の「市場の関与者構造」になる。もちろん、主体が違えば配置も変わる。市場の関与者構造図は、主体が誰かによって自由に描き替えればよい。
「5F+組織運営」と「市場の関与者構造」をまとめてあらわすと以下の図になる。
ここからは、「営業のマーケティング」の技術「5F」の中身をファンクションごとにみていく。まず「商品」から。
従来の「商品のマーケティング」では商品の開発をどう説明していたか。もっとも一般的なものを挙げてみよう。
第一に、環境である政治・経済・社会・技術=PESTの事実、カスタマー(顧客・得意先)・コンペチター(競合者)・カンパニー(自社内部)=3Cの事実、からチャンスを探す
第二に、顧客を分類し(セグメンテーション)、ターゲツトを決め(ターゲティング)、自分たちの商品の市場における位置づけを明確にする(ポジショニング)。=STP。
第三に、決めたSTPのうえで、具体的にどうやって商品設計し、価格をどうして、どの流通で売るか、どんな広告・販促をしていくかを決める。=4P
第四に、その4Pを、PLC(プロダクト・ライフ・サイクル)=導入期・成長期・成熟期・衰退期に沿って展開していく。
これは、フィリップ・コトラーが、専門家たちが考案した戦略フレームを合体させて整理したものといっていい。
この体系は、いまでもたくさんのサプライヤー(製造業・中間流通業)のマーケティング部門でさかんに使われている。
近年は、大きくなったお客さま接点は自社オリジナル商品の開発をサプライヤー(製造業・中間流通業)にたいし頻繁にもとめるようになった。なので、それらお客さま接点と接している営業は「営業のマーケティング」のなかのひとつの技術としてこのステップを知っておく必要がある。もしくは、このステップの経験を持つ者を営業チームの一員として組み込んでおくべきだろう。
商品をつくる者はブランド別の体制で担当商品のマーケティング計画を組んで営業に伝える。お客さま接点と交渉する営業はそれをたくさんのブランド担当から受け取る。当然、ひとつひとつのブランドの計画はぼやけてくる。計画したブランド価値の伝え方、売り方が徹底できなくなる。ノルマ管理を受けている営業は、その数値目標のみを念頭において動くことになる。
だから、商品をつくる者とお客さま接点と交渉する営業の間ではいつもトラブルが起こる。
なので、営業は、自社ブランドを単純に大きく3つに分けて、商品コンセプトに忠実な伝え方・売り方を維持する必要がある。
第一に「突出NB」。お客さまにとっては他は真似できない機能価値があり、お客さま接点や中間流通にとって高い粗利が魅力、自社にとっては利益源となるブランドである。ロングセラートップNBや、高付加価値NBが該当する。この商品はすべて、お客さまの認知・経験・採用・愛用を維持するとともに、新価値を付加して新しい認知・経験・採用を増やすアクションを進める。
第二に「キャッチアップNB」。突出した価値は無いが、お客さまにとって高い機能価値、お客さま接点や中間流通にとって大きなコミュニケーション量が魅力となり、自社にとっては市場影響力の維持になる。この商品は、突出した価値はなくても、大きな売上、市場シェアを維持・獲得する上では必要不可欠なブランドであるため、マス広告や条件提示などのプッシュ策で、配荷率・露出率を上げることが共通のアクションになる。
第三に「PB」。お客さまにとっては低価格でそこそこの機能価値、お客さま接点や中間流通にとっては他社にはなくて高い粗利、自社にとってはキーアカウントの支持の獲得が魅力となる。この商品は、NBと違って主体が複数になり、商品開発が苦手なお客さま接点がリードするため、どうやって商品の開発・育成を共通認識をもってすすめられるか重要になってくる。
突出NB」も「キャッチアップNB」もPLC(プロダクト・ライフ・サイクル)」を意識してブランドを育成していく。お客さま接点と交渉する営業は、つねにお客さま接点の単品・カテゴリ全体の売上・利益の向上の要請にさらされているため、ひとつひとつのブランドの価値をきちんとお客さまに伝えていく努力はおろそかになりがちだ。だから、「ブランドを育てる」というマインドと技術をきちんともつことが大事なのだ。
「突出NB」も「キャッチアップNB」も共通して、お客さまの認知・経験づくり、経験・採用づくり、採用・愛用づくりの3段階で、施策を変えながら育成していく。具体的には以下の表のとおり。「キャッチアップNB」は、市場影響力を上げる売上・シェアが目的なので、マス広告、得意先重点販促エントリー、リベート・アローワンスの多用、広告時の売場での垂直立上げ、カバレッジアップの比重が高い。「突出NB」は、利益確保が目的なので、CRM、BtoB&BtoCの動機付けの試用・サンプリング・勉強会、リアル&バーチャル、機能連結のダイヤモンドフォーメーションなどの比重が高くなる。
また、実際にはほとんど実施されていないが、PLC各段階における施策は、そのブランドのお客さまへの到達状況を測定しながら、最適な施策を選び、実行していく必要がある。お客さま接点にいる営業だからこそとくに必要なことである。
とくに推奨したい測定方法はAMTUL調査である。
・A:アウエネス 認知(助成想起)
商品を見せたら知っている
・M:メモリー 記憶(純粋想起)
そのブランド名を思いつく
・T:トライ 経験
購入したことある
・U:ユースィジ 採用
いまもときどき購入している
・L:ロイヤル 愛用
このブランドに決めている
複数の商品について、
この5段階の質問をするだけだが、
それぞれの率の格差が意味をもつ。
たとえば、
認知と記憶の落差が大きければ、
広告・売出し露出を倍増する。
記憶と経験の落差が大きければ、
優位置露出、価値メツセージ、
サンプリング、試用にこだわる
「バリュー・チェーン」という言葉がある。1980年代にマイケル・ポーターが提示した。原材料調達・生産、商品開発、販売、といった個々の機能を強くし、連鎖させて、高い付加価値を形成するという考え方だ。このバリューチェーンの主導権は、その商品の普及率が低かったり、模倣が難しかったりすると、製造業が握る。しかし、普及率が限界に達し、お客さまの選択力が上回るようになり、相場商品(コモディティ)のようになってくると、お客さま接点がリードするようになる。現在は、まさにその過程で、各機能間で、バリューチェーン主導権争いが起こっている。
お客さま接点は、お客さまに向かって、卸売、製造業営業、商品開発、原材料調達・生産といった、不慣れな川上の機能を統合するかたちでバリューチェーン・コーディネーターの役割を果たそうとする。
中間流通業は、商品開発や原材料調達・生産が不慣れなお客さま接点に代わって、バリューチェーン・コーディネーターの役割を引き受けようとする。生産設備をもち商品開発に長けている製造業にはかなわないように見えるが、中間流通業も原材料調達の面では多様な商材の調達網を世界中に広げているためたたかえる。
製造業では2つの動きが起こる。NB製造業はお客さま接点の要望にたいし自社製PBで応えるとともに、自社製にこだわらず商品を外から調達して販売していく動きが出てくる。また、その川上にいる原材料製造業が、それまで販売先だったNB製造業を超えてお客さま接点や中間流通業と直接手を組みバリューチェーンの主導権をねらう動きが起こってくる。
つまり、旧来の製配販の秩序が壊れ、全産業がお客さまに向かっての「バリューチェーン・コーディネーター」として競い合う時代を迎えている。営業のマーケティングの「商品」は、自社のモノの開発ノウハウとともに、モノを0からつくりあげていくバリューチェーン・コーディネートのノウハウも含まれてくる。
お客さま接点の多くが「製造小売業」という方針を掲げている。バリューチェーン・コーデイネーター化といってもいい。事実、大きく高い技術をもつ製造業がいない、ファッション、インテリア、家庭用品といった業界では、ユニクロ、ニトリ、ダイソーなどのように製造小売業が大きく伸びている。しかし、大きなナショナルブランドメーカーがいる加工食品、日雑では、お客さま接点はバリューチェーンの起点となりつつも、お客さまから信頼されるPBはあまりつくれていない。それは、お客さま接点に商品を開発して育成するという経験・知識がまだ不足しているからだ。
加工食品、日用雑貨をおもにあつかうお客さま接点、中間流通業、製造業は、お客さま接点起点のオリジナル商品を開発・育成しようとしたら、以下の点に注意しなくてはならない。二俣事務所が製造業にヒヤリングした結果である。
「商品のマーケティング」では流通政策を商品の効果的な配荷手段ととらえる。独自のお客さま理解のもとに商品を開発し、その配荷先として流通を組織小売・業種小売、さらに大きな接点、伸びる接点、価値の伝わる接点などに分類して構成する。つまり、まず商品があり、それにあわせた流通の構成をする。とくに製造業の営業は、商品が命であるがゆえに、原則、この商品起点の流通政策にしたがう。
しかし、お客さまのニーズに対応して業態を準備し、商品構成を考えている現在のお客さま接点からすると、それでは「それはあんたの勝手でしょう。ウチの方針にはあわない」となる可能性もある。とくに下位の製造業はそう扱われる。
なので、お客さま接点と向き合っている「営業のマーケティング」の流通政策になると、まず流通の考え方、構成を受け入れ、それに合わせた商品の配置・開発、という順になる。たとえばだが、流通は、お客さまの補充・選択・利便・サービスという基本的なニーズにあわせて業態を展開し、そのうえで企業方針を持っている。サプライヤーはそれを大きな接点・伸びる接点・価値の伝わる接点の視点をもって理解する。そのうえで、その業態・考え方に沿って、突出NB・キャッチアップNB・PB・業務用商品という大くくりの商品配置をして、独自のお客さま理解のもと商品を開発する。
中間流通業や、それぞれの業界で圧倒的な数を占める下位の製造業たちにはこの考え方の流通政策が要る。
商品起点の流通政策でも、流通起点の商品政策でも、共通する流通にたいする視点がある。「大きな接点、伸びる接点、価値の伝わる接点」である。大きな接点とは、そのときの最大クラスのお客さま接点のことであり、たとえば食品でいえばスーパーであり、シェアの上位を占める企業のことである。伸びる接点とは、伸び率の高いお客さま接点のことであり、業態でいうとコンビニ、ドラツグストア、EC(エレクトリック・コマース:通信販売)であり、さらにそのなかでとくに伸びている企業のことである。価値の伝わる接点とは、自社商品の価値がお客さまに伝わりやすいお客さま接点のことで、たとえば高付加価値NBを積極的に売ろうとしている企業のことである。
大きなシェアをとろうとしている場合は、大きい接点とともに伸びる接点を重点化する必要があり、シェアよりも限られたお客さま接点で安定して売っていこうとする場合は、価値の伝わる接点を重点化する必要がある。
お客さま接点の主役は変わってゆく。一般消費財でいうと、かつては業種別小売業が主役だったが、それがスーパーなどの組織小売業に代わり、いまでは、コンビニ、ドラッグストアへと移りつつある。今後は、EC(エレクトリック・コマース:通信販売)が大きな位置を占めるようになるかもしれない。
商品のマーケティングのコミュニケーションは、流通に、リベート(一定量の販売を行うことで割戻金を約束した期間契約)、アローワンス(施策ごとに納価抑制や謝礼などの特別条件を合意する)、などのいわば価格の魅力で売ってもらうpushプッシュ(トレード・プロモーション)策と、お客さまを、広告、イベント、店頭販促などのいわば非価格の需要創造策でひきつけるPullプル(コンシュー・マープロモーション)策の、大きく2つの方法を駆使する。
営業のマーケティングのプロモーションになると、お客さま接点の多様化やお客さま接点の課題に常に接しているため、pushプッシュ/Pullプルの中身が複雑になる。
「pushプッシュ」策は、リベート・アローワンス・特別条件の価格の魅力の施策は依然として重要だが、人手不足環境下、従業員さんに売る気になってもらうための試用、サンプリング、勉強会、工場見学などの非価格の施策が必要になる。価格の魅力で押し込むだけでなく従業員さんの動機づけを重んじるため、「pushプッシュ策」ではなく「BtoB施策」と呼んでいい。
「Pullプル」策は、お客さま接点にいる者のマーケテイングなので「広告」というより「広告時の売場垂直立上げ」になり、お客さま向けのイベント・試用、店頭販促、コラボ販促があり、さらに新しいプロモーションとしてCRM(Customer Relationship
Managemen:個客との関係の継続)、リアル&バーチャル(ネットで刺激し店に呼び込むなどのオムニチャネル施策)、などになってくる。集客=pullだけに留まらず個客とのつながりを深めていく施策も重要になるため「BtoC施策」と呼んでいい。
具体的なコミュニケーション施策については、次の章の「考える営業」の中で触れていく。
スマホの登場によりお客さま接点が過去とは一変し多様化している。
お客さまの生活動線を描いてみるとよい。そこには、依然として、四大メディア(テレビ、ラジオ、新聞、雑誌)、交通、店が存在しているが、その力は低下し、代わりにネット(バーチャル)の力が高まっている。歩いていても、座っていても、電車や車に乗っていても、買い物していても、テレビを観ていても、遊んでいても、手元のスマホをみている。
ネットの存在がこれほど大きくなっているのだから、お客さまの認知経路、情報収集経路、購買経路を測定し、理解し直したほうがよい。それは商品によって大きく違うだろうし、変化の過程にあるのだろうから、商品ごとに見続けるべきだ。
たとえば、以下のような調査をweb調査でよいので継続して実施していくべきだろう。併せて、よく利用する店やそこへの評価もとれば、お客さま接点向けの提案材料にもなる。
そんなお客さま接点の新理解をもとに、コミュニケーション施策を組み立てていく。認知・情報収集経路にネット(バーチャル)が大きな位置を占めはじめているはずなので、これまでの広告+店頭販促だけでは済まなくなる。ネットで刺激して店に呼ぶ、ネットで販促をかけてそのまま注文してもらう、といった方法も重要になってくるはずだ。
営業のマーケティングの「営業」については、次の章の「考える営業」で具体的に紹介する。ここでは、商品のマーケティングにおける営業と、営業のマーケティングの営業では、どこが違うかに触れておく。
商品のマーケティングの営業は、商品起点なので本社の政策を忠実にこなすことによる目標達成が求められた。担当営業がお客さま接点の調達部門窓口とだけ交渉し、自社商品を売るための需要創造施策やリベート・アローワンスなどの価格施策を提案した。商品起点の政策を忠実にこなすため「考えない営業」と呼ぶ。
たいして営業のマーケティングの営業は、自社の政策実現とお客さま接点の課題解決の施策を自分で考え抜いて計画・展開する。担当者個人が調達部門窓口にたいし自社商品の交渉をするだけでは済まなくなり、内外が参加する大きなダイヤモンドフォーメーションを形成して、経営層や計画・営業部門も対象としてバリューチェーン・コーデイネーターの役割を果たしたり、経営課題へのお役立ち取組もする。まさに現場が考え抜いて主導する「考える営業」といえる。
お客さま接点の時代の営業は、「考える営業」でなくてはならない。
「考える営業」は、3つの基本要素で成り立つ。第一に、目的は得意先と自社のwinwinであること。第二に、方法は、人脈づくり、会社の力、非価格の課題解決、価格・コストの課題解決の4つの営業を組み合わせること。第三に、もうひとつの方法として、自分で考えて考え抜いた計画の実行・検証を繰り返すこと(=PDC)。以上である。詳細は次章の「考える営業」で示す。
さいごに「ロジステイクス」について示す。ロジスティクスも次章の「考える営業」のなかで再び触れることになる。
「ロジステイクス」は、輸配送、保管、包装、荷役、流通加工、情報処理の物流6機能についてのチェック・改善がその中身になる。なおこの6機能は角井亮一「基本からよくわかる物流のしくみ」を参考とした。
ここまで営業のマーケティングの技術を機能ごとに説明してきた。ここからは、その最適結合のしかた、つまり「営業のマーケティング戦略」について解説していく。
まず、戦略とは、次のように定義できる。
戦略とは、変化への、ヒト・モノ・カネ・情報、機能の最適結合である
「営業のマーケティング戦略」の定義は以下のとおりになる。
営業のマーケティング戦略とは、市場の関与者構造の変化および設定した目標への、5F+組織運営の最適結合である
「戦略」と似た言葉で「戦術」がある。2者は違う。
「戦略」の条件を、「戦術」と対比させて説明すると、「戦略」とは、目標達成のための固有のストーリー、と言える。
ほぐすと、長期(中長期で考える。最低1年、通常3~5年)、集中(絞り込んだチャンス(重点課題)に集中する)、統合(各機能(技法)を組み合わせる(連結する))、革新(これまでとは違う新しいしくみ・方法を採る)、執念(あきらめない。強いマインドで推進する)、となる。これも故水口健次氏の整理を参考にしている。
戦略には、基本的に3つのタイプがある。
第一に、ポジショニング。商品・生産起点で場所を決めてたたかう。大きな生産設備をもちそれを稼働させていかなくてはならない製造業や、中間流通はこのタイプの戦略になる。商品のマーケテイング戦略がまさにそうである。
第二に、ケイパビリティ。たたかう方法よりも、たたかう力を上げることに注力する戦略だ。「考える営業」を中心におく営業のマーケティング戦略はポジショニング戦略の実行戦略であるとともにケイパビリティの戦略ともいえる。
第三に、アダプティブ。核の基本的方向性だけ決めておいて、あとの方法論は環境変化適応でやっていく戦略。変化が激しいお客さまに直接接している小売業、サービス業はこの戦略をとる。
このポジショニング、ケイパビリティ、アダプティブに分ける考え方は、三谷宏冶氏「経営戦略全史」を参考にしている。
営業のマーケティング戦略は、❶事実の分析、チャンスの探索、❷重点課題と目標、❸戦略・戦術、❹実施・展開の4ステップで構築する。これも、故水口健次の整理を参考にしている。商品のマーケティング戦略の代表的ステップ、❶PEST、❷3C、❸STP、❹4P、❺PLC、とくらべると大枠は同じであるが、中身がすこし違ってくる。下図のとおり。
営業のマーケティング戦略は、市場の関与者と交渉して目標を実現していかなくてはならないため、戦略・戦術の具体的内容、その実施展開がたいへん重要な位置を占める。
戦略も、組織の役割分担の単位ごとに存在する。
企業(事業)戦略は、生産調達、研究開発、組織人事、財務の内部向けの戦略と、マーケティングの外部向けの戦略に大きく2分できる。そのマーケティング戦略は、商品と広告販促(コミュニケーション)をおもな領域とする「商品のマーケティング戦略」と、営業、ロジステイクス、流通、販促(コミュニケーション)をおもな領域とする「営業のマーケティング戦略」に分けられる。多くの組織は、スタッフ部門であるマーケティング本部と、営業部門である営業本部に分かれているが、マーケティング本部が商品のマーケテイング戦略を担当し、営業本部が営業のマーケティング戦略を担当しているともいえる。
営業のマーケティング戦略の営業戦略は、本社戦略、エリア戦略、得意先戦略の3層でできている。1990年代前半までは、商品のマーケティング戦略の観点で配荷を主目的としてそれを各エリアの特性に合わせて工夫していくエリア戦略が重視されたが、1990年代後半からは、組織小売業比率の上昇、上位企業による集客の寡占化の進行により、重要な得意先へのアカウント戦略(得意先戦略)のほうが重視されるようになっている。
本社戦略、エリア戦略、得意先戦略の営業戦略3層は、どれも、❶事実の分析、チャンスの探索、❷重点課題と目標、❸戦略・戦術、❹実施・展開の4ステップで構築する。中身が少しづつ違ってくる。以下のとおり。
近年重要になっている得意先戦略は、バレートの法則などを参考にそのチャネルの販売金額の8割を占める上位得意先(約2割)を重点得意先(キーアカウントと呼ぶところもある)を選定し対象とする場合が多い。
お客さま接点産業が大きくなり市場をリードするようになるにつれて、製造業・中間流通産業も得意先戦略の比重を高めているのだが、その弊害も出ている。お客さま接点との取引の技術ばかりが注目されるようになったため、エリア全体でお客さまとの出会い方をみていく姿勢が薄らいだ。
お客さまの実際の生活は「点」ではなく「面」である。面の生活をするお客さまの好意と購買を高めなくてはならないのに、お客さまの面の生活動線、その動線で出会っている新しいリアル接点、新たに伸長するバーチャル接点、影響者(行政・メディア・生産者・各団体・事業所など)の存在、集約され大きな存在となっている中間流通、が目にはいらなくなっている。しかも、事業別やお客さま接点別の縦割りの体制がつづき、その間の移動が少なくなり、能力が専門化していることで、市場を面でみれる人が少なくなっている。
エリア全体を面でみてチャンスを見つけられる人をつくり直す必要がある。
また、重点得意先の課題対応を基本姿勢とする得意先戦略の台頭は、商品のマーケティングの軸であるブランド育成へのこだわりも薄くさせている。お客さま接点と対峙する営業は、商品軸での以下のような、お客さまの認知・経験を増やす段階の施策、経験・採用を増やす段階の施策、採用・愛用を増やす段階の施策、といったブランド育成シナリオもきちんと保持しつづけなくてはならない。